なんとなく安曇野。

赤、黄、緑色の物体を生産しています

   

 先週日曜日の夕方から降りだした雨は一晩中続き、月曜日、畑に出てみたらほんの2日前までたっぷりあった雪がもう殆ど見る影もなくなっていた。

 

二十四節気の雨水が過ぎて、ぐんぐん春めいて先日の雨であっという間に冬が洗い流された感じ。この地は二十四節気が言うところの季節感に結構忠実な地域なのかもしれない。

 

昨年末、どこからかもらったカレンダーの裏に晴雨表が印刷されていて、今年は1月1日から毎日天気をこの晴雨表に記録している。娘のサクラクーピーを拝借して晴れなら赤、雨なら青、曇りは紫、雪の場合は白(色なし)と決めて毎日記録。天気の判定は朝飯食っている時に窓の外を見た時点の空模様としてます。朝晴れていて夕方雨の場合は、細かいこと気にしないで晴れと記録。つまりかなり大雑把な記録なのだが、月が終わって色分けされた天気の「数」を数えて集計するのがちょっとした楽しみ。因みに先月は晴れが18、くもり6、雨1、雪6。

 

剪定は只今4枚目の畑の6列目。つがるという品種の剪定をしています。欠木の多い畑なので、あっという間に終わりそう。昨年つがるの収穫中に果実の着色や成りがいいなぁと感じた枝にテープや紐で印をつけておいたのですが、それを春の接ぎ木用に切って保管などもしております。少しでも優良な枝があればそれを自分で増やしてやるのが良苗を手に入れる最善の方法と考えています。収穫期はそんな視点からもぶら下がっている果実を眺めていたりします。まぁちょっとした宝探しみたいなもんです。

 

長野県の果樹試験場がまた新たな品種をデビューさせてくれます。新聞で果実の名称を募集するとあったので、よし、何かパンチのある名前を考えてみようと応募方法のテキストを見ていたら「シナノ」を名称の前か後ろかに入れないといけない事が判明。なんちゃら「シナノ」あるいは「シナノ」なんちゃらとしなければならない。それで軽トラの中などで色々考えて幾つか思い浮かべるもまったくまとまらず、色々考えてる間に募集期日は過ぎてしまっていた。まぁそんな事で自分は応募できませんでしたが、きっと、どこぞのハイセンスなお方が素敵な名前をつけてくれることでしょう。名前はいつ発表なのでしょう。楽しみです。

 

今回発表されたりんごの新品種ですが、片親が「千秋」。隣の畑のとっさまは「また割れんじゃねぇか!?」と警戒気味。すでに広く流通しているシナノゴールドというりんごの片親も同じ「千秋」で軸の部分の割れが多いのですよ。さて実際どうなんでしょうか。

 

新しい品種は実際栽培してみると色々難しい面も露わになってくると思われますが、生産農家、お客さんに長く愛される品種に育ってほしいです。今の時代ふじがデビューした時とは全然状況がちがって、もう美味い品種は沢山あるので、これぞという品種ならば少々何かあっても創意工夫で克服して物量と品質を揃えて世に送り出していかないと、お客さんにしっかり認識してもらない気がします。

 

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Bi-axisからのMultiple leadersへの展開。Good Fruit Grower ”Fruiting wall concept expands: 2014 IFTA Italy”から転載。

 

昨年11月に行われたIFTA( International Fruit Tree Association)のワールド・スタディ・ツアーの様子がGood Fruit Growerの記事になっていました。上の写真は記事中で紹介されていたイタリアの南チロルでの圃場の様子です。ブドウの仕立てで似たような形の仕立てがありますが、とても個性的な樹形です。

 

りんごの苗木はこれまで一本棒の紡錘形(スピンドル)に仕立てて定植されるのが一般的でしたが、これまでの栽培法のデメリットを克服する意味合いもあって、苗木の段階で2軸にして定植する方法が約15年前にイタリアではじめられたのですが、それが更なる発展を遂げて、上の写真の様な多軸の木(Multiple leaders)へと進化を遂げた模様です。 

 

これまで目を通した資料なども合わせて、この話題の内容を自分の感想も含めてまとめてみたいと思います。

 

多軸の木のベースになっている2軸苗はバイアキシス(bi-axis)といったり、ツインリーダー(twin-leaders)といったり、ダブルアキシス(double-axis)といったり、イタリアの苗木屋(下のパンフレット)はドイツ語でビバウム(bi-baum)とか言うてます。イタリアなんだからいイタリア語で言えよとか思うのですが、どうやら南チロルの人はドイツ語がお好きなようです。

 

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BIBAUM® MAZZONI - the twin-leader treeLower production costs, better fruit quality!

 

さて、最初の写真の多軸の木ですが、2軸苗の2つの軸を左右に、水平まで誘引しその軸上に小さなスピンドル樹を生やしたような恰好に仕立ててあります。柔軟な発想で観ていて実に楽しい気分になるのですが、なんでこういう栽培をしているのかその背景を少しまとめてみました。

 

他にもあるかもしれませんが、主な理由は次の3つだと思います。

 

単位面積の生産性を上げるための密植栽培ですが、密植であるがゆえにりんご園を作るときに大量の苗木が必要となります。例えば、スーパースピンドル(木と木の間隔が50~70㎝)と呼ばれる非常に密植度の高い栽培方法だと、1町歩(100m×100mの面積)あたり4000~6000本以上の苗が必要となります。長野県が推奨している密植栽培の手法でも1200~3000本以上必要。密植栽培に適した苗は日本では買えば1本2000円以上するので、狭い面積で植えるとしても、それなりにまとまった金額が必要となります。つまり初期コストがとても高い。これが2軸化の苗木を植えるならば1軸のものより木と木の間隔を広くとれるので、植える本数が少なく済むよ、そして多軸にすると、もっと間隔を広くとれるから、もっと少なくて済むよ。つまりコスト減になるよと。1つ目はそんな所だと思います。

 

2つ目は樹勢の話なのですが、1軸苗と比較して2軸苗は穏やかに育つことが分かっています。木の成長の勢いが2つの軸に分散されるのです。また同樹齢の1軸苗と比較すると2軸苗の枝数は約2倍、枝の長さは約半分となることをイタリアの研究機関が報告しています。これが多軸になると、もっと樹勢は穏やかになることが期待されます。細かな枝が穏やかに伸びてくれれば、木と木の間が枝で埋まるまでゆっくりと時間がかかる。つまりりんご畑の経済寿命が延びるよ。あと、太陽光も良く通るから木の下の方の果実品質も上がるよ~という訳です。

 

3つ目は機械化の導入の話となります。日本もそうですが海外の果樹園においても働き手の不足は解決しなければならない課題のひとつとなっていて、その解決策として機械化できる仕事はどんどん機械化しようみたいな方向になっています。機械化自体はもうすでに、これまでの栽培法にも導入されているのですが、多軸苗のりんご畑はより機械化しやすいのではないかと言われています。

 

参考までに、りんご園の仕事の機械化とはどんなものか、ちょっと動画をはっつけて置きましたのでよろしければご覧ください。

 

例えば下の動画は敵花を機械化したものです。


Mechanical thinning to produce organic apples - YouTube

 

トラクターの前にクルクル回ってりんごの花をバシバシたたき花を落とす装置を装着して敵花作業を行っています。言葉は悪いですが日本ではこんな雑な仕事は今のところできないでしょうね。花を選んで敵花をしないと日本の市場が求める大玉で肌のきれいなりんごを安定的に作ることが難しいからです。

 

次の動画は機械化された剪定です。


Cięcie mechaniczne jabłoni 2013 Fama CMA 250 ...

 

剪定もなかなか豪快です。これも今のところ、まだ日本には馴染みそうにない剪定方法です。敵花のときみたいにトラクターの前に専用のデバイスを装着してどんどん仕事を進められます。

 

最後に機械化された収穫風景です。


Tafelobsternte Harvesting fresh apples - YouTube

 

この機械は小さなベルトコンベヤーに収穫したりんごを一つずつ載せていくタイプです。重い収穫かごを持たずに収穫作業を進められるので、働き手の負担が減り、作業効率も格段に上がりそうです。収穫したりんごはビンと呼ばれるりんごが400キロぐらい入る箱にどんどん収められて、一杯になったら収穫機の後ろの通路にポンと出される。それを運搬用のトラクターが出荷場所まで持って行くみたいな作業の流れです。機械のタイプは色々あって、以前の記事で動画を張り付けましたが、アメリカにはベルトコンベアーではなく、掃除機みたいに一瞬に吸い込んでしまうバキュームアップルハーベスターなるものもあります。

 

バキューム・アップル・ハーベスターの動画。


Phil Brown Welding - 2011 Vacuum Apple ...

 

機械化を導入するためには、機械向きの樹形、大雑把で単一な機械的な動きに向いている樹形がいいわけで、そうなると、太い枝がつっぱているような大きな樹よりも、横幅の小さな、奥行きも薄い、すらっとした木が好都合なのです。これまでの1軸の栽培法と比べて枝の伸びが穏やかなになるであろう多軸の木は機械化にはまさに最適な栽培法ではないかと考えられているみたいですね。

 

大きく見て、この3点が多軸の木の提案理由なんだと思います。

日本には開心形という、まぁ多軸化の極限みたいな栽培法が昔からあります。昔からあるエッセンスと、今の時代の要求とが上手い具合に融合した感じの仕立てに僕には見えます。

 

あと、多軸の木に関してなるほどなぁと思ったのが、現状、密植栽培の市場ではM9と呼ばれるリンゴの木をちっちゃくする台木を使うのが主流となっていますが、例えばレッドデリシャスというリンゴはMM106という台木にのせると樹勢がバカ強になる、それで今度は弱いM9にのせると、バカ弱になるらしく、まったくもって困ったちゃんなのですが、こんな場合は前者のMM106台で多軸化すれば上手い具合に樹勢が散って収まってくれる可能性がある。これまで密植栽培では使えない台木と思われていたMM106台木が多軸にすれば使えるんじゃないかと、イタリアの研究機関がちょっと言うてるのです。

 

つまりこの方法を日本の事情に当てはめると、日本産のJM7やJM2などの強めの台木を利用しても、苗を多軸に仕立てれば、品種の相性もあるでしょうけれど、結構上手い具合に生産性の高い密植栽培が実現できるのではないか。そうすると凍害に弱いM9台以外での密植栽培ができるかもねと、そんな可能性が見えてきます。台木の選択肢が増えるというのは栽培上大きな強みですからね。肥沃な土地でりんごを作る人は多軸化させた方が栽培上のメリットは大きいかもしれません。ちょっと想像するだけで色々と応用がききそうですね~。

 

良い生産とは、良い品種と、品種に合った良い作り方の掛け算だと思います。そこに良い販売がさらに掛けられると、良い経営が見えてくると思います。それぞれの要素の改良は時間が掛かりますが、一歩一歩積み重ねて楽しくやっていきたいと思います。

 

最後にいつも色々教えてくれるグーグル先生ありがとうございました。笑。