なんとなく安曇野。

赤、黄、緑色の物体を生産しています

   

春ですね~接ぎ木しています。

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今年も接ぎ木の季節がやってきました。

仕事の様子などちょっと紹介致します。

 

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接ぎ木の様子。

 

それにしても、春ってどうしてこんなに忙しいのでしょう。春になって、ぽかぽか陽気になって、色々命が動き出して、それを色々いじって、そこから色々頂いて生活しているので、忙しくなるのは、それはまぁ致し方ない気もしますが、少し視点を変えると、植物の活発さと、自分の多忙さがシンクロするというのは、植物さん達と、ただならぬ関係になってきた、より深い関係になってきた証ではないかなと、まぁそんな事を思ったりしながら連日、穴を掘ったり、それを埋めたり、ならしたり、色々地面をいじって日々過ごしております。

 

3月末から苗木の定植、そして今度は苗木の(りんごの)土台となる台木の引き上げと整理、一部取り木床の改造(なんと今回でver.5、詳細は書くと長くなるので割愛)マルチを敷いて台木の定植、そしてその上に接ぎ木と、トントン仕事を進めてきました。

 

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農業という仕事大きく見ると、常に何かを基準にして、例えば、太さだとか、長さだとか、重さだとかで、手にするものを分類し、それをまとめて、さて、これはあそこに配置しよう、あれは弱いから強いのと合わせておこうとか、そういう整理整頓をずっとやっている感じです。平たく言うと、りんご屋というか整理屋です。

 

台木の引き上げは、太さで3つに分けて、一番細いグループをさらに幾つかに分けて、こうしたら、まだまだ使えるね、これはさすがにダメねと、ジャッジしていきます。保管している穂木の太さと出来るだけいい具合に合わせられるように準備しておくと全体で無駄が省けますので、分けて並べて保管しておくというのはとても大切な作業になります。

 

接ぎ木は台木と穂木(品種)のドッキングで、りんご属の異業種交流みたいなことをするので、あまりバランスの悪いことをやると、生育がよろしくなくなります。太いものには太いものを、細いものには細いものを組み合わせていきます。身の丈の合った出会いの方が後々事が上手く運びます。

 

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台木にのせる穂木(品種)。

穂木は台木に差し込めるように、先を切りこんで薄くしておきます。穂木が少し太めだなと感じるときは、台木の中心部分に近い所にスムーズに穂木が入る様に、少し薄めにしたりして工夫しておきます。

 

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 腰にぶら下げるカゴに穂木を入れたところ。

畑で接ぎ木作業する場合は、写真のようなカゴに穂木を入れて持ち歩いています。たぶんこれはキノコ狩り用のものだったと思うのですが、軽くてとても扱いやすいです。普段は娘がこの中に大きなミッキーマウスのぬいぐるみを入れて持ち歩いています。

 

春先は風が強くて、舞ってきた畑の土で穂木が汚れてしまいますので、写真のように中をグルッと資材で囲って、さらに上にタオルを載せて持ち運んでいます。

 

台木の前に座って、台木の太さに合う穂木を、カゴの中からガラガラと探し出して接ぎ木していきます。

 

 さて、ここでクイズ。

 

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ここに2本の切る前の穂木(ふじ)があります。両者の違いが分かりますでしょうか?

 

僕が接ぎ木をする場合、左のものを優先して使います。

 

この理由は芽と芽の間隔がより短いもの(節間がより短いもの)を使用したいからなのですが、下の写真で芽のあるところに矢印(→)を付けてみました。両者の芽の間隔の違いがよくわかると思います。

 

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そして、さらに左の枝を観察すると、芽の間隔が他と比べて、さらに狭くなっているところがあります。下の写真で赤の点線で囲った部分になります。

 

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この芽の間隔が詰まった部分を上手い具合に穂木にすると、下の様になります。

 

 

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この2つの芽の間隔が狭い穂木だと、2つの軸の長さが揃った苗木(バイアキシス)をつくり易くなります。これについては、りんごの頂部優勢という性質を理解しておいてもらえればすっとわかってもらえると思いますので、下に図を作ってみました。

伝えにくい想いは図にする。コミュニケーションの基本です。笑。

 

 

 

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頂部優勢のイメージ。左が頂部優勢の効果最大、真ん中は中程度、右は頂部優勢が最少。

 

頂部優勢とは上にある芽が下にある芽より、より優位に成長することです。正確な定義はどこかで調べてもらうとして、2つの揃った苗を作る場合、この現象は、避けて通れないものとなります。

台木の上にのせる穂木は数センチの木片ですが、その狭い範囲内でも、上の芽がより優先的に成長することが多いです。ただし、例外もあります。1本の大きな木でとらえると、上部の枝はいつもほぼ例外なく優位に育ちますが、小さな木片の世界ではいつも上の芽の成長が下の芽より優れるとは限りません。下の芽からの枝の方がはるかに太く、上位の芽からの枝の長さを追い抜いている状況もよくあります、そんな状況をみると、不利な状況化でよく頑張ったなぁ、みたいな視線で枝を見つめてしまいます。

 

去年ある程度まとまって、2軸の苗木を作ってみて、この頂部優勢の性質と、あと色々と例外もるなかで、最終的に揃った2つの枝を出すには、出発地点をやっぱり極力揃えないとねと思いました。そこで今年の苗作りは、可能なかぎり、穂木の段階で芽の近い状況にできればなと調整していました。

 

バイアキシスの発祥の地であるイタリアの苗木屋さんは、頂部優勢の影響を受けない様に、外部から切り取って持ってきた2つの芽を、台木の同じ高さに芽接ぎする方法(ダブルの芽接ぎ)でバイアキシスの苗木生産を行っています。

これも分かり易い様に図にしてみました。

 

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ダブルの芽接ぎによる2軸苗のイメージ。同じ高さなので頂部優勢の影響を受けない。

 

イタリアの苗木屋さんはこの方法で特許取得しているようで(たぶん、このダブルの芽接ぎをしたあと、何かしら色々手を加えている様な気もしますが)確かに、とても合理的な手法です。

 

この方法は二つの芽を同じ高さにのせるというところがポイントなのですが、そこが正に手の込んだところだし、あと、これはまた別の海外の生産者のレポートでしたが、芽接ぎする2つの芽の遺伝的性質が揃わないと、結局きちんと揃った2軸になりにくいそうで、生産コストがかかる上に、何かしら特殊なノウハウが必要な可能性もあって、特許も絡んでいるし、この方法に踏み込むのは、まぁやめとこか、と個人的見解です。

 

今年の栽培では可能限り近い芽で揃えた穂木を調整し、これで上手く行くものはこれでOK(芽が離れていても上手く行くこともあるので、まぁ気持ち程度に揃えているというのが正直なところですが。)これであまりに両軸がアンバランスになる様なら、適切な時期に1軸に戻して、前に少しこのブログで触れたフランスのロレッタさんのダブル・Uの手法に切りかえる、基本的に2段構えでトライしてみます。

ダブルの芽接ぎは100年以上前にロレッタさんもその方法について触れていますが、昔からの手法が現代の最前線の果樹栽培のベースになってるって、いやぁ温故知新やわぁと、改めて思います。

半分仕事、半分趣味みたいな気分でやりたいなとおもっています。

 

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 これは、一本の枝の中に色々な芽の状態があるよという例です。

赤い矢印の部分で枝の成長は一旦停止して、そのあと、2次的に枝が伸びています。赤い矢印の下部分は芽の成長が緩慢になってきて徐々に成長が停止してきているので、芽の間隔が非常に狭くなっています。ある意味、2軸苗にするにはもってこいの部分です。

 

赤い矢印の上は再び枝の伸びが再開しているのですが、栄養状態が悪く、最初の数芽分は完全に芽が飛んでいます。この部位は接ぎ木には使用しない方がいいのです。

 

枝には万遍なく芽がついている様にイメージされている方も多いですが、実はこのようによく見ると、芽のつき方や、その状態は枝の伸長状況や日光の当たり方など、様々な要因で色々な状況があるのです。

 

このようなことを注意深く観察して、利用できるものは利用し、使ったら不利になるものは使わない様にしています。

 

 

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 先日、芽接ぎを紹介しましたが、テープを外した写真ものせておきます。

これを反対側にもやるとダブルの芽接ぎになります。色の変わっている部分が穂木としてのせたふじの部分です。はっきりと違いがわかりますね。

 

 こんな感じで仕事してます。